
2030年、物流が止まる
日本の物流業界は構造的危機に直面している。
2024年4月の働き方改革関連法施行により、2030年には輸送能力の34%が不足する見込みだ。
具体的には、月間6,200万トン——月間11.5日分の荷物が輸送できなくなり、物流コストは2023年比で30-60%上昇すると予測されている。
物流そのものが希少資源になることを念頭に、輸送会社との交渉カードを揃えていく必要がある。
エゴからエコへ
食品など市場シェアの大きな業界では、プラットフォーム主導の共同物流モデルが問屋を介さず同様の集約効果を実現する可能性が高いとのこと。
これらは政府がフィジカルインターネット・ロードマップを策定し、2040年までの完全実現を目指しており、オープンで共有された物流ネットワークを構築することで、これにより32%のコスト削減、60%の排出削減、50%の道路貨物の鉄道転換が可能と試算しているとか。
これらの話は何兆という規模の業界で繰り広げられる壮大な物語なので、我々のような中小零細には関係のない話のように思えるが、これらを皮切りにクリティカルな物流コスト上昇を突きつけられることは間違いない。
端的にいえば、構造再編にコストを割く大手に輸送リソースは集中し、現状維持を貫くいわゆるエコではない中小・零細事業のもとには配送トラックがやってこない未来が待っている。
本質の見極め
私はとある業界で問屋業として商いをしている。日本古来の問屋の役割は「仲介」であり、メーカーから仕入れて小売に卸す。与信リスクを負担し、配送を統合する。それだけだ。
しかし数多ある問屋が無茶な価格競争や本業から逸脱した商いで自滅していく。当時はシステムやソリューションなどという形式張った言葉も概念もなかったから致し方ないのだが、帳合を増やすことだけに躍起になり、本来の機能・役割を果たせずに統廃合が進んでいった。
そんな最中、弊社は三方よしの中長期な商品インフラを構築することを念頭に営業活動を行っていた。簡単に言えば無理をしない。悪く言えば適当。当初から計画性があったわけではなく、上役の理念や人柄によるものが大きかったといえよう。
無論、苦労は耐えなかったが、本質が求められる現代において培ってきた信頼がここまで大きく活きることになるとは誰もが想像しなかっただろう。
プラットフォーム戦略
「プラットフォームってなんだ!ぷらっと寄れるサービスステーションか!」
って経営者同士の宴会でジジイが宣っていた記憶がありますが、あながち間違っていないのだ。
ヒトもモノもデータも集まる場所、それがプラットフォーム。
ただ集まってもらうには絶対的な本質を見据えた機能性と合理性、そして信頼が必要である。
サービスもソリューションも数年で作れる。
しかし、信頼は作るものではなく後からついてくるものである。
見立てを整える
政府の指針も業界の号令も、所詮は他人事だ。
コスト削減だの効率化だのと大層なことを言うが、結局は自社の立ち位置次第で意味が変わる。大事なのは波に乗ることではなく、波をどう利用するか見極めることだ。
SDGsも人権問題も環境問題も、全て同じ構造だ。誰かの利益に繋がる枠組みとして設計され、それに乗れない者を排除する自浄作用として機能する。綺麗事の裏には必ず力学がある。
物流問題も例外ではない。
大手は構造再編に巨額を投じ、輸送リソースを確保する。中小はコスト増に耐えられず淘汰される。これを「環境のため」「持続可能性のため」と包装しているだけだ。
だから今回の話で大事なのは、戦略を立てることでも計画を作ることでもない。
今ある自社の本質の見立てを変えることだ。
問屋が「通過点」から「プラットフォーム」になる。物も人もデータも集まる場所として、販売機会そのものを提供する存在になる。
見立てを変えるだけで、随分と裾野は拡がりを見せる。
やっていることの本質は変わらない。配送を統合し、与信を負担し、データを整備する。しかし、それを「仲介業務」と見るか「プラットフォーム機能」と見るかで、意味が変わる。
経営者が思っているだけではダメだ。従業員にも、取引先にも、この見立てを提唱していく必要がある。
物流危機は、その契機を与えてくれる。

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