
「この会社には危機感が足りない」
入社初日、この言葉が頭に浮かんだ。
危機というのは、放置すれば時間と共に「困難」へと形を変える。テスト勉強を後回しにして、一夜漬けで失敗する学生のように。
危機を知りながら向き合わなかった時間こそが、未来を殺していく。
しかし現場には、「見て見ぬふり」が常態化した、甘えた空気が漂っていた。
私はその空気に、まず警鐘を鳴らすことから始めた。
「経営視点」が教えてくれたもの
私の問題意識の原点は、「経営視点」にある。
財務・組織・モチベーション。あらゆる観点で危機が潜んでいた。
そのため、まず誰よりも早く現場に入り込み、地道な作業から取り掛かった。
- 必要なデータの洗い出し
- わかりやすい指標への変換
- 感情を逆撫でする仕掛けで自発心の喚起
- "エサ"をぶら下げて誘導する導線づくり
正直、やりたくないことを率先してやるのは楽ではない。
けれど、誰かがやらなければ始まらない。
組織が動き出した2つの転機
本格的に組織が動き出したのは、2つの施策がターニングポイントとなった。
1. 人事評価シートの導入
人事評価は、モチベーション設計の核だ。
私はその形骸化を防ぐために、自ら評価シートを一から設計した。
評価項目で重視したのは以下の3点:
- 現場でのコミュニケーション活性化
- 職場の雰囲気改善
- 自分の考えや姿勢を発信する力
声の大きさやワガママの強さではなく、周囲を動かす「健全な影響力」を持つ人間を評価することを意識した。
2. 組織再編と現場リーダーの擁立
人間関係の捻れや仕事の属人化は、いつまでも現場の生産性を阻害し続ける。
それを一掃するため、抜本的な組織再編を行い、リーダーを選定してボトルネックの解消に乗り出した。
特に、口だけで行動しない人間には現場裁量を与え、「その口に見合った動きができるのか」を見極めた。
これは意地悪ではない。空洞化した中間管理職層の創出に向けた、ふるい分けのプロセスだ。
問題は「私語」ではない、「私情」である
たとえば、よくある極端な改革案として、「現場のミスが多いのは私語のせいだ。だから業務中は一切の私語禁止」といったルールが提案されることがある。
だが、この背景には往々にして、「自分が忙しいのに、周囲が楽しそうに喋っていてムカつく」という私情が存在している。
私は基本的に私語を歓迎している。そこから生まれる協調、発見、学習など得られるものは随分多い。
本質的な問題は、ミスではない。"誰かへの苛立ち"という感情の発露である。
改革は一朝一夕にはならない。だから仕組みで縛る
社員の自発性を促す施策は、正直腐るほど思いつく。
だが、その有効性に大きな差はない。なぜなら、どの施策も「成果が出るまで時間がかかる」からだ。
だからこそ、時には集団圧力や同調圧力といった組織行動論的手段を用いたり、ナッジ理論やポジティブ・デビアンスを応用した設計が必要になる。
評価と報酬を結びつけることで、ようやく人は"行動"に移る。
優秀な一握りが組織を引っ張る現実
私は他の記事でも書いているが、今後の組織設計において「ごく一部の有能なプレーヤーを、長期にわたって守り抜く」ことが最重要だと考えている。
はっきり言えば、彼らさえ機能すれば、組織は十分に動く。
大多数には、「最低限、邪魔をしないこと」だけを求める。
ひどい話だと思うだろうか?
だが、危機感をもち、行動に移す人とそうでない人の間には、埋めがたいほどの力量差が存在する。
これは現実だ。
最後に
危機感とは本来、誰かに言われて持つものではない。自分で気づき、燃やし続けるものだ。
もしあなたの周囲に「見て見ぬふり」の空気が蔓延しているなら、そこから抜け出す最初の一歩は、自分が変わることだ。
「動く者にしか、動かす資格はない。」

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